雑駁一瞥近代日本文学史・7

7 耽美派白樺派
 明治末から大正にかけての2つの動き。
 自然主義★に対して、高踏派とはまた別のところから、2つの勢力が勢いを増してきます。上手いことをいう人がいるもので、この状況を、要するに「真・善・美」だ、と言い表せるそうです。
 真=自然主義、善=白樺派、美=耽美主義。
 言い得て妙ですな。


a 「白樺派」★
 学習院を中心としたお坊ちゃん連中が、理想と人道主義ヒューマニズム)を標榜してうちたてるのが、雑誌「白樺」★に集う、「白樺派」です。


武者小路実篤★ 『お目出たき人』★『友情』★
志賀直哉★   『和解』★ 『暗夜行路』★ 『城の崎にて』★
有島武郎★   『或る女』★


武者小路実篤の初期のものを読むと、理想と人道主義を標榜、の意味がよくわかることでしょう。かつては『友情』あたりが、よく中学生の読書課題になったりもしていました。
 今の世に読むものとして一人挙げるなら、やっぱり志賀だな。日本文学好きなら、やっぱり志賀の作品の幾つかは目を通してよいでしょう。ただ、志賀を勧めて文学ギライを生産したくもないので、万人には勧めません。とまれ、巧いことは認めざるをえない。志賀も実篤も結構長生きして、志賀は死ぬ直前の太宰と論争(喧嘩?)をしたりもします。太宰の志賀への尊敬/軽蔑というアンビバレントな感情が見どころ。それぐらい、志賀は一つの側面において日本文学史を体現した作家といえましょうかね。

小僧の神様・城の崎にて (新潮文庫)

小僧の神様・城の崎にて (新潮文庫)

 志賀はこのあたりかなあ。


b 「耽美派」★
 一方、リアルをただ描いて何が面白い、せっかく小説をなすのなら、美の世界に耽溺するべし!というのが、耽美派です。これは二人。


永井荷風★ 『すみだ川』『氵墨東綺譚(ぼくとうきたん)』★。もともとアメリカ・フランスを旅して『あめりか物語』『ふらんす物語』を世に出すバリバリの舶来かぶれだったはずが、その中期から東京にあって江戸の世界を生きようとする荷風先生。

濹東(ぼくとう)綺譚 (岩波文庫)

濹東(ぼくとう)綺譚 (岩波文庫)

 ものすごく個人的なことだが、大学に入って最初に読んだ一冊なので思い入れがある。私が「贅言」という言葉を好んで使うネタ元。


谷崎潤一郎★ 『刺青』★『春琴抄』★『痴人の愛』★『細雪』★
 平安文学専攻としては『少将滋幹の母』あたりも推したいが、とりあえず四作。この人も話すと長いが、とにかく耽美派といえばこの人。
 とにかく、ギャルゲーとかエロゲーとかする前に『痴人の愛』ぐらい読んどけ!

痴人の愛 (新潮文庫)

痴人の愛 (新潮文庫)

痴人の愛』の語り手の仕掛けが大好き。谷崎は授業では扱わない予定ですが、どこかで触れることがあるでしょう。