四方田犬彦『『七人の侍』と現代』
- 作者: 四方田犬彦
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2010/06/19
- メディア: 新書
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黒澤明、ひいては日本映画の最高傑作のように語られる『七人の侍』に関して、同時代的な受容、黒澤の意図とその実際、登場人物論、そして現代における位置づけられ方の功罪、など、いくつかの角度から切り込んで論じて、全く飽きなかった。
とりわけ興味を引かれたのは、一つは、農民(「百姓」)の描かれ方への記述。現代ですら農村幻想は根強いが、昭和20年代という民衆礼賛の時代に、それを相対化するような「百姓」像を描き出すあたり、時代を鑑みるに、やはり異質な作品であったことを確認させられた。
時代性という点では、「敗戦」を軸にした『ゴジラ』との双生児的関係についての言及も納得。『ゴジラ』が敗戦の記憶と直結するものであることはよく言われるところであるが、『七人の侍』と関わらせたのは初見(私があまり映画評論を読まないからかもしれないが)。
それと、四方田が語るなかで様々な作品や批評家・作家を取り出してくる立て板に水っぷり(?)がひたすら楽しい(ひけらかしている感じがあまりないのもいい)。それにしても日本にいては気づかないうちに、世界でこれほど「『七人の侍』もの」*1が流布しているというのも、功罪に関する記述を超えた部分で、やはり『七人の侍』の作品としての強度に思いを来さずにはいられない。紛争地において、『七人の侍』が自分たちを重ね合わせるように受容されているという点は、慄然とさせられるものがある。むろん、四方田が世界の映画に目配りを欠かさないからこそ、それらの問題がわかるわけであるけれど。
「フード理論」については言及はなかった。これはむべなからぬことである。